トマス技研(下) 「技術通し環境改善、無煙焼却炉でゴミ問題解決へ」琉球新報2025年2月14日(金)経済面に連作(2)
琉球新報 経済欄
Who強者(ちゅーばー)
How強者(ちゅーばー)
沖縄企業力を探る
海外販路開拓へ再起
鼻の奥をつく異臭、ごみの中から少しでも売れるものがないか探す子どもたち、徘徊する動物たちー。2014年、トマス技術研究所の福富健仁社長の姿はインドネシア・バリ島の山のようにごみが積み上げられた最終処分場にあった。多くの離島を抱えるインドネシアのごみ問題に、福富社長は施設導入の財政面や移送費など、沖縄との共通点を感じた。課題解決へ「(無煙小型焼却炉)チリメーサーなら補える」。ここからトマス技研の海外プロジェクトが始まった。
きっかけは13年にインドネシア・バリ島から突如、訪れた来客だった。事務所へと案内した福富社長に「沖縄と似たような観光地で島国です。バリ島では、こんなごみがたくさんあって困っています」と訴え、生ごみや繊維くず、プラスチック廃材などが詰められたビニール袋を差し出した。一見して日本の家庭で排出される〝燃えるごみ〟の類いだった。
■沖縄と共通課題
インドネシアは多くの離島を抱え、沖縄とも共通する側面があった。小規模離島では処分基準を満たす施設導入は財政面などでハードルが高かった。また処分できても最終処分場への移送などで、コストや人員などに課題があった。
中でもバリ島のごみ問題は想像以上に深刻だった。一般ごみに混ざる医療廃棄物。命を救うはずの病院から出されるごみには注射器の針などが混在し、十分な滅菌もされていなかった。ごみから少しでも売れるものを探す人たちはそうしたごみでけがをし、感染症などを患い、命を落とす者も少なくなかった。
福富社長はJICAの中小企業海外展開支援事業に応募し、調査事業などを通して、現地とも意見交換を重ね、チリメーサーをバリ島州都デンパサール市のワンガヤ総合病院に導入することが決まった。
■相次ぐ想定外
順調に進むとみられたが問題は相次いで発生する。チリメーサーの炉内を制御する水蒸気はバリ島の水の硬度が高く、カルシウムが発生し凝固した。燃料に使用する軽油には不純物が交じり、負担が大きくポンプは焼け焦げた。
環境やインフラ事情が異なるバリ島でチリメーサーを適応させる作業は想定外の連続だった。
それでも福富社長は軟水機の設置やポンプのフィルター交換頻度を変えるなどの改善を施し、一つ一つ難問をクリアしていった。
ワンガヤ総合病院での本格稼働後、1日に焼却できる廃棄物の量は100キロから250キロに増え、煙や異臭もなくなり廃棄物残渣の滅菌も十分になった。排出される焼却灰も当初と比べ10分の1に。その成果から、インドネシア保健省が国内の公立病院2800院への導入を打診してきた。
さらに20年1月に同じ島しょでリゾート地でもあるモルディブ・ホルドゥー島への納品も決まる。現地環境への対応のため、塩害防止の腐食対策や遠隔管理が可能なIoT、海水を淡水化する機能を併設した「モルディブチリメーサー」を開発した。
しかし海外事業が軌道に乗り始めた時に、またも想定外の出来事が訪れる。
■コロナショック
20年4月、世界的な新型コロナ流行もあり、各国で人流を制限するロックダウン(都市封鎖)が始まった。納品の準備を進めていたモルディブチリメーサーはコロナ禍のあおりを受ける形で現地への配送がストップ。結局、納品できたのはさまざまな制約が解除された24年2月だった。
コロナ禍の約4年、稼ぎ頭の海外事業は中断を強いられた。その間に、インドネシアで得た技術認証や焼却炉の運転許可証も期限切れを迎えてしまった。
コロナ乗り越え、技術開発へ
コロナ禍が収束した今、福富社長は「ここからが再スタート」と前を見据えている。コロナ禍の4年間は国内市場開拓に注力し、SNSでの広報活動にも注力した。22年には特定技能制度を活用し、インドネシア国籍の従業員を採用。現地に派遣したマーケティングなどを始めており、「まいた種が芽吹きつつある状態」だ。
「技術を通して社会貢献」が信条。ごみ問題に悩む国々のため、海外販路拡大へと情熱をたぎらせている。
(完)